2014.6.30

自分から面白がる姿勢が大事だなって思います
天久聖一/漫画家

不穏でドロっとしたヤツが好き

― 映画との付き合い方や影響を受けた部分について、本日はお話を伺わせてください。まず、最近劇場でご覧になった映画は何ですか?

天久:近頃あまり行けていないんだけど、一番最後に劇場で観たのは『風立ちぬ』かな。(※2013年11月時点)

― ちなみに映画館は、お一人で行かれるんですか?

天久:そうですね、一人が多いです。

― ジャンル的には、どういうのが好きなんですか?

天久:監督で言うと、デヴィッド・リンチやデヴィッド・クローネンバーグみたいな不穏でドロっとしたヤツが好き。最近だとDVDで観た、『コズモポリス』(デヴィッド・クローネンバーグ監督作)は面白かったですね。ちょっと近未来な世界観の中、リムジンに乗って床屋に行くだけなんだけど、いつの間にか不条理な世界に迷い込むんですよね。そういうのが昔から好きです。

― 一番最初に衝撃を受けて、記憶に残っている映画体験って何かありますか?

天久:小学校6年のときに、公民館に移動映画館が来てそのときのラインナップが『ドラえもん・のび太の恐竜』と黒澤明の『影武者』の二本立てだったんですよ。もちろん当時はドラえもん目当てだったんですが、併映の『影武者』のインパクトがとにかくスゴくて。とくに色つきの煙幕のなか悪夢が延々つづくシーンがあって、結局そこしか覚えてなくて(笑)。そのあたりからジャッキーチェンやドラえもん以外にも映画があるんだなって認識しましたね。
中学のときは部活と勉強!って感じで、自分から映画館に行くようになったのは高校生になってから。背伸びしてカッコいいのを観なきゃっていう感じでした。ジム・ジャームッシュとかテリー・ギリアムの作品を観ていました。

― その頃で特に印象に残っている映画は?

天久:ベタですけど、ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』。ちょうど同じころ友達と『天空の城ラピュタ』を観に行って、その直後くらいだと思います。 なぜかそれはひとりで観に行ったんですよね。“初めてカッコいいものを観た!”と思いましたよ。キラキラした目で(笑)。
あと、森田芳光の『そろばんずく』っていう作品も高校生の時にやっていて、主演がとんねるずなんですけど、その組み合わせはスゲエなと。『家族ゲーム』や『それから』が大好きだったんで。それで絶対面白いから!って友達誘って観に行ったんです。でもなんというか、正直かなり微妙なテイストで。僕は誘った手前ホメちぎったんですけど(笑)。

最も影響を受けたのは、同時代感のある森田芳光の初期作品

― 幼少の頃から香川県で過ごし、その後、漫画家になる前に就職されているんですよね?

天久:神戸拘置所で刑務官を2年間やっていました。その頃って、大阪の深夜テレビで良いセレクトの映画をやっていたんですよね。それで寺山修二とかジョン・ウォーターズの作品だったり、『スローターハウス5』や『エルトポ』といったカルトよりの作品を観ていました。何かそういう系統にどっぷりはまってました。仕事も塀の中だったしで。

― それが二十歳ぐらいですよね。その後、東京出てきて漫画家になられると思うんですけど、その頃に印象に残っている映画って何かありますか?

天久:ちょうどデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』がブームで、その前か後かは忘れましたけど『ブルーベルベット』観たときは衝撃でしたね。不気味で笑えて、見終わった後なに見せられたのか全然覚えてないという。

― そういう映画を観て、漫画家として影響を受けた部分もあったんですか?

天久:影響はすごく受けましたね。その頃はギャグ漫画を描いていたんですけど、間とか空気感だったり。当時デビューした90年頃って、シュールギャグ漫画が全盛なんですよ。そういう影響もあって、訳分かんない方が偉いとか思っていたので、映画もそういう感じのを好んで観ていました。
ただ、そのあとタランティーノやコーエン兄弟あたりから、出身はメインストリームじゃないけど構成が上手くてスカっとしたエンタメ作品がどんどん出てくるようになって、そっちにハマりましたね。
上京してからは、なんでもビデオで観られるようになったんで、雑誌で知識としてしか知らなかった作品を実際に観れるようになったのはうれしかったですね。ビデオのおかげで系統を追って観るようになった。ヌーベルヴァーグってこういうのだとか、ゴダールはこんな感じかとか、だったらフェリーニを観なきゃとか、ド田舎と刑務所しか知らなかったんで、そういう教養みないなのが身についてくるのがうれしかったです。逆に今の世代はネットでさらに情報があふれてるから、系統だてては観てない人が多いんじゃないでしょうか。それより横並びで好きなのを点で観ていく感じ。でもそういう世代のクリエイターからも面白いものが出てきてますよね。

― たくさんの作品に触れる中、特別影響を受けたものってありますか?

天久:思春期に戻って言うと、森田芳光の初期の作品は、ホントに影響を受けていますね。すごくシュールなギャグとか、これまでのアングラを逆手にとったライト感とか。ああいうのが当時としてはすごい新鮮で。同時代感みたいなものも感じたし、映画とは別に80年代のカルチャー的なものを感じさせてくれました。

― 唐突というか垢抜けたシュールさがあって独特ですよね。それって、天久さんの作品にも通じる部分があるんですが・・

天久:んー、森田作品は抜けがいいんですよね、重さがなくてスコーンとした感じ。いくら褒められるようにまとめてもどっかで舌出してる感じですかね。でも結局はそういう映画から透けて見える時代性に共鳴してたんだと思います。ちょうど思春期に遭遇したのがバブル前の軽薄というか、無責任な時代なので。いくら深刻なふりしても最終的には「全部うっそでーす!」っていう、くだらないオチがないと気が済まないんですよね。それは自分の作品にほとんど共通してると思います。

映画鑑賞は、作り手たちの頭の中を追体験すること

― 先程、最近は系統だてて観る人が少ないっていうお話が出ましたけど、夢中になれるものを持たないという人達に、好きなものを見つけていくためのアドバイスがあれば。

天久:一つの作品を観て、“面白い”や“面白くない”だけで終わってしまうのはもったいないですよね。特に映画館とかで身銭切って観たもので面白くないと、単に損したってだけになっちゃうんですよ。たとえ面白くなくても、自分がリスクを負って受け入れたものは、そこから次に繋げるとか掘るとかした方がいいと思う。逆に好きだったり面白かったものも、単に面白かっただけで終わらせずに、何故面白いのかっていうのを掘っていったら、自然に次が気になると思うんですよ。そういう意識を持っていれば、監督が面白いのか、俳優が良かったのか、それとも他の何かが面白かったのかが分かると思うんです。自分から面白がる姿勢のほうが大事で、単に金出したら誰かが面白がらせてくれるんだろっていう考え方はダサいと思うんですよ。

― 作品に触れるのに受動的ではなく、もっと能動的に触れていこうという気持ちですかね。

天久:一方的にサービスを受けるなっていうね。面白く感じるかというのは本人の主観の持ちようなので、自分の面白がり方に対して、もっと責任を持たなきゃいけないかなと。出会いをボーっと待ってても余りもの押しつけられるだけですよ(笑)。

― 最後に。天久さんにとって映画というのは、どういう存在ですか?

天久:追体験ですよね。監督をはじめとした作り手たちの頭の中だったり、イマジネーションの世界を追体験すること。だから映画を観る時は、それを体感する乗り物に乗るみたいなイメージですかね。映画以外の作品に触れるのもそうだけど、映画は映像も音もある分、一番豪華なクルーズ版といったところですかね。

(終)

天久聖一(漫画家)

1968年8月14日生 香川県出身。1989年マガジンハウス「パンチザウルス」でデビュー。以後漫画以外の分野で活躍中。主な著書に「バカドリルシリーズ」(タナカカツキ氏との共著)「味写入門」「こどもの発想」など。映像作品としては電気グルーヴ、ゆらゆら帝国のPV制作、ロードムービー「悲しみジョニー」。また昨年、初の小説単行本「少し不思議。」を上梓した。

天久さん おススメの名作


  • 『の・ようなもの』

  • 『ロスト・ハイウェイ』

  • 『エル・トポ』

  • 『イースタン・プロミス』

  • 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』